複製と流通のシステム、あるいは青春の1ページ

ダメ! 絶対にダメです!

人の子の親になどついぞなったことのない私が自身の娘でもおかしくない年齢の女の子をそんなふうに叱ってみるとき、「これが父親の心境というヤツなのか?」と想像して独り虚しくもなる。
そんな晩秋、品川ラズベリーで責任者を勤めさせていただいている者が肌寒い朝にこれを記しています。

ルネッサンス三大発明の一つとされる、グーテンベルグの活版印刷技術に始まりおよそ文化に纏わる「複製と流通のシステム」は21世紀の現在大きな岐路に立たされています。

わかりやすいのは「CD不況」と言われて久しい音楽業界、国内では専ら法整備による「締め付け」で対策が摸索されているようですが、しかしそれが何の解決にもなっていないのは誰の目にも明らかです。
業界の焦りは彼らが牛耳っていたはずの流通と複製のシステムがもはや彼らの手を離れたにも等しいことに起因します。

例えば、一昔前までは歌手としてプロになることを「レコードデビュー」もしくは「CDデビュー」と称していたのですが、ある頃を境に「メジャーデビュー」という言葉に置き換わっています。
実は今どき「CDデビュー」など例えばこの私にすら簡単にできてしまうわけで、要は自身で吹き込んだ音源をPCでCDに焼けばそれが即ちCDデビュー、もはやそれだけの事象に過ぎないのです。

「メジャーデビュー」という言葉が差別化するのはまさに「流通と複製」の所在、メジャー即ち大手レコード会社がその流通と複製を担うからこそ、そこに然るべき「価値」が生じるのです。
何故そこに価値が生じるのかと言えば、その前段としてメジャーによるアーティストの「篩い分け」のシステムが機能していることになっているから。
尤も、そのシステムがとても正常に機能していると言えないのは、服部克久も憂えた音楽業界の「現状」を見れば容易に知れることでもありますが…。

件のグーテンベルグも、自らが印刷業を営んで自身が発明した技術で随分と儲けたそうなのですが、嘗てはそれを所持することが特権的でさえあった流通と複製のシステムはもはや誰の手にも・・・
インターネットの普及以来、私のこの駄文ですら理論上は世界中の人の目に触れさせることが可能に、自作の小説を友人に読ませることにすら四苦八苦した私の学生時代は一体何だったのか…、と。

ところで、私は何を「ダメ!」と叱ったのか。
無用な講釈でいつまでもお茶を濁している場合ではありません。

その彼女はあろうことか「AVに出たい!」と私に相談してきたのです。
しかも「別におカネが欲しいとかじゃなくて、そういうのは今しかできないじゃないですか、記念ていうか…」みたいな軽いノリ、その認識の甘さには呆れるしかありません。

確かに「今しかできないこと」と言えばそうですし、それを「記念」としたいくらい彼女の青春が歪んでいることをとやかく言う資格は私にはありません。
しかし、それを自身の記憶の1ページにのみ留めておけるという甘い認識を咎めないわけにはいきません。

彼女の美しくも哀しいその「青春の1ページ」は永久に複製され底知れぬ悪意がそれを果てしなく流通させる、何れ劣化するVHSビデオとのレンタルビデオ屋での天文学的な邂逅を不運とするような時代ではもはやないのです。
少し前にも或る女子高校生の「プライベートな写真」がネット経由で拡散され「リベンジポルノ」なる概念が世間を驚かせたりも、もっと危機感を持って欲しいものです。

そして、私はこれを「業務」と嘯いてみます。
彼女らの「青春の1ページ」に私の記憶が残ることに然して害はないでしょう。
こんな時代であってもヒトのココロだけは決して複製も流通もされはしません。

私たちの「業務」はそのかけがえのない「青春の1ページ」と真摯に向き合い、そしてそれを欲する人たちに誠実に届けること。
ネットからダウンロードなど決してできない不自由さに大いに戸惑って下さい。

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